毎年のことだが、正倉院展が始まる。今年は十数年ぶりに「蘭奢待」が展示されると報道されていた。自分の記憶の中ではガラスケースに入った「蘭奢待」は、昨年の正倉院展で見たはずなのである。ガラスケースの中からは香りは出て来ないなあと思いながら見たと思っていた。ところが、展示は十数年ぶりだと言う。そんな昔に見た記憶はない。
どこか別のところで・・・、見る機会があるはずがない。正倉院展なのだから。
家内は「『日曜美術館』か『正倉院特集』か何かで見たんじゃないの?」と言う。それ以外に思い当たる節がない。僕が見たのはガラスケースの中の蘭奢待ではなくて、ディスプレイの中の蘭奢待だったのか。それにしてはあまりにもイメージが鮮明だ。丸いブラウン管の時代だったらそういう思い違いは起こりようがない。ハイビジョンの鮮明な画面で見ると、それを本当に見たという記憶にすり替わってしまうものなのだろうか。
解像度が7,680 × 4,320のスーパーハイビジョンがすでにNHKとシャープによって開発されていると聞いた。フルハイビジョンのちょうど16倍の画素数になる。スーパーハイビジョンだったら、暗い博物館で直視するよりはるかに鮮明に見えるだろう。そうなったら間接的経験が直接的経験を超えるのか? ガラス越しに見るのは普通の直接的経験とは違うということで片づけておくことにしよう。